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福岡高等裁判所 平成5年(行コ)5号 判決

控訴人

大平洋子

外一四名

右一五名訴訟代理人弁護士

本多俊之

河西龍太郎

中村健一

被控訴人

小城町

右代表者町長

村山和彦

右指定代理人

川副定

今村昌幸

被控訴人

小城町教育委員会

右代表者教育委員長

武富英男

右指定代理人

橋本平次郎

真子公敏

右両名指定代理人

富田善範

新徳継秋

主文

一  原判決中、控訴人らの被控訴人小城町に対する請求に関する部分を取り消す。

二  控訴人らの被控訴人小城町に対する訴えをいずれも却下する。

三  控訴人らの被控訴人小城町教育委員会に対する控訴をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は一・二審とも控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2(一)  別紙第一事件控訴人目録記載の控訴人は、被控訴人小城町との間において、同目録の子供欄記載の子供がそれぞれ満六歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから満一二歳に達した日の属する学年の終わりまで、同人らを小城町立桜岡小学校に就学させる権利を有することを確認する。

(二)  別紙第二事件控訴人目録記載の各控訴人は、被控訴人小城町との間において、同目録の各控訴人欄に対応する子供欄記載の子供がそれぞれ満六歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから満一二歳に達した日の属する学年の終わりまで、同人らを小城町立桜岡小学校に就学させる権利を有することを確認する。

(三)  別紙第三事件控訴人目録記載の各控訴人は、被控訴人小城町との間において、同目録の各控訴人欄に対応する子供欄記載の子供がそれぞれ満六歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから満一二歳に達した日の属する学年の終わりまで、同人らを小城町立桜岡小学校に就学させる権利を有することを確認する。

3(一)  別紙第一事件控訴人目録記載の控訴人が昭和六三年二月一〇日付けで被控訴人小城町教育委員会に対してした、同目録の子供欄記載の子供についての区域外就学申請につき、同被控訴人が同月二五日付けで同控訴人らに対してした同申請を不承諾と告知した処分を取り消す。

(二)  別紙第二事件控訴人目録記載の各控訴人が平成元年三月一〇日付けで被控訴人小城町教育委員会に対してした、同目録の各控訴人欄に対応する子供欄記載の子供についての区域外就学申請につき、同被控訴人が同月一四日付けで同控訴人らに対してした同申請を不承諾と告知した処分を取り消す。

(三)  控訴人大島慶幸及び控訴人藤木義介がそれぞれ平成二年五月二一日付けで被控訴人小城町教育委員会に対してした、別紙第三事件控訴人目録の各控訴人欄に対応する子供欄記載の子供についての区域外就学申請につき、同被控訴人が同月二五日付けで同控訴人らに対してした同申請を不承諾と告知した処分を取り消す。

4  訴訟費用は一・二審とも被控訴人らの負担とする。

二  控訴の趣旨に対する被控訴人らの答弁

1  本件各控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二  当事者双方の主張は、次のとおり改めるほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決書八枚目表一一行目の「第一事件各原告」及び同裏三行目の「各原告」をいずれも「控訴人大平洋子」と、同九枚目表初行の「第三事件原告」から同四行目の「六日付けで」までを「控訴人大島慶幸及び控訴人藤木義介は、平成二年五月二一日付けで」と、同七行目の「第三事件原告」から同一一行目の「付けで」までを「控訴人大島慶幸及び控訴人藤木義介に対して同月二五日付けで」とそれぞれ改める。

二  同一六枚目裏六行目の「本庁」を「佐賀地方裁判所」と訂正する。

第三  〈証拠関係省略〉

理由

第一被控訴人小城町に対する訴えの適法性について

一本件各訴えは、控訴人らがそれぞれその子供を桜岡小学校に就学させる権利を有することの確認を求めるというものであって、行政事件訴訟法四条後段所定のいわゆる実質的当事者訴訟に当たると解されるところ、その訴えの適否を判断するに当たっては、小学校における就学制度及び就学手続きに関する現行法制度の検討が必要になるが、これらの点については、原判決書二〇枚目裏六行目から同二三枚目表九行目までに記載のとおりであるから、これを引用する(但し、同二〇枚目裏七行目から八行目にかけての「普通初等」を「初等普通」と、同二一枚目表九行目、同一一行目、同二二枚目表一一行目から一二行目にかけて、同裏末行及び同二三枚目表二行目の各「学校教育法」をいずれも「同法」とそれぞれ改め、同表初行の「区域外就学」の次に「についての希望地の市町村の教育委員会」を加える。)。

二以上に認定したところによれば、保護者が学齢児童を住所地以外の市町村の設置する小学校に就学させることができるのは、現行法制度の下では、区域外就学の承諾を得た場合と教育事務の委託がなされた場合のいずれかしかないことになるところ、区域外就学については就学先の市町村の教育委員会の承諾が必要になるが、本件では、後記のとおり、控訴人らによる区域外就学申請に対する本件各不承諾処分が既になされており(争いがない)、これを不服とする右不承諾処分の取消訴訟(抗告訴訟)も提起されて本件と併合審理されているから、右取消訴訟と併合提起された就学権確認の訴えの訴えの利益を肯定できるか否かが問題となる。思うに、行政処分の違法を争うには、まず直接の救済方法である当該行政処分(本件各不承諾処分)の取消訴訟によるべきところ、控訴人らが右取消訴訟において勝訴判決を得てこれが確定すれば、被控訴人小城町教委は右判決に拘束されて(行政事件訴訟法三三条一項)、控訴人らによる区域外就学申請を承諾する処分をせざるを得なくなるため、控訴人らが本件確認の訴えを提起することによって達成しようとした目的は遂げられることになり、その結果、本件確認の訴えは不要になることが明らかである。そうすると、本件においては、本件各不承諾処分の取消訴訟を提起することにより、直截にその目的を達成することができるのであるから、実質的当事者訴訟としての本件就学権確認の訴えは訴えの利益を欠くものといわなければならず、右訴えは不適法である。

三なお控訴人らは、区域外就学の手続きによらずにその子供を桜岡小学校に就学させる権利を慣習法上取得した旨主張するが、公法上の法律関係においても慣習法の成立する余地はないではないものの、公権力の行使を内容とする公法上の法律関係においては、具体的な法令上の根拠がなければ行政権を行使することができないものであるから、かような法律による行政の原理が強く支配する領域においては、慣習法の成立する余地はないものというべきであり、こう解することが法例二条の趣旨にも合致するものである。これを本件についてみると、学齢児童の就学を巡る(公法上の)法律関係は、前記のとおり市町村の教育委員会による地方教育行政法、学校教育法施行令等に基づく公権力の行使を本質とするものと解されるから、仮に控訴人ら主張のような長年にわたる慣行が存在するとしても、その主張のような慣習法が成立する余地はないものというべきである。

四よって、本件確認の訴えは確認の利益を欠く不適法なものとして却下を免れない。

第二被控訴人小城町教委に対する請求について

当裁判所も、控訴人らの被控訴人小城町教委に対する請求をいずれも棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決書の理由欄三、四と同じである(なお、「三」を「一」と、「四」を「二」とそれぞれ訂正する。)から、これを引用する。

一原判決書二六枚目裏一二行目の「第五号証」の前に「第四号証の一、」を、同二七枚目表二行目の末尾に「第二五号証の一、二、」をそれぞれ加え、同三行目の「ないし第三〇号証の二」を「、二、第二八号証、第二九号証、第三〇号証の一、二」と改め、同五行目の「第三一号証、」の次に「乙第三号証の一、」を加え、同六行目の「第一五号証の一、二、」を削り、同七行目の「第三六号証」の前に「第二六号証、」を加え、同一〇行目の「甲第五号証」から同一一行目の「という。)」までを「甲第六号証ないし第九号証、第一一号証、証人福島是幸(以下、単に「福島」という。)の証言により成立の真正を認める甲第五号証、第一〇号証並びに証人福島」と改める。

二同二八枚目表初行の「四月」を「八月」と、同一一行目の「同年」を「昭和五八年」と、同二九枚目表五行目から六行目にかけて及び同行の各「入学通知書」をいずれも「入学告知書」と、同裏一一行目の「教育委託規約」を「教育事務の委託に関する規約」とそれぞれ改め、同三〇枚目表九行目の「委託」の前に「事務」を加え、同三二枚目表五行目及び同末行の各「第一事件原告ら」をいずれも「控訴人大平洋子」と、同一一行目の「同月」を「同年二月」と、同裏六行目の「第三事件」から同三三枚目表初行の「昭和六三年度」までを「控訴人大島慶幸及び控訴人藤木義介からそれぞれ区域外就学申請がなされたが、被控訴人小城町教委は、同控訴人両名に対して同月二五日付けでそれぞれ昭和六三年度と」とそれぞれ改める。

三同三三枚目表五行目の「そこで」から同六行目末尾までを「そこで、被控訴人小城町教委による本件各不承諾処分の違法性の有無について検討する。」と改め、同七行目の「学校教育法」の前に「区域外就学の承諾に関する処分は行政事件訴訟法三条二項所定の「行政庁の処分」に該当することが明らかであるところ、」を加え、同裏三行目の「設置」を「設備」と、同六行目の「認められ、」を「認められる場合に限って承諾すべきものである(したがって、右承諾については当該市町村の教育委員会に裁量権が与えられていることになる。)が、右」とそれぞれ改め、同一一行目の次に、行を改めて「そうすると、本件各不承諾処分の取消しが認められるためには、それが裁量権の範囲を逸脱し、又は裁量権の濫用に当たる場合であることが必要であると解される(行政事件訴訟法三〇条)。」を加える。

四同三四枚目表五行目の「乙第五三号証の一」の次に「、成立に争いのない乙第七三号証ないし第一五八号証」を、同七行目の「区域外就学にあっては、」の次に「児童ごとに保護者から区域外就学願が個別の書面によって提出され、右申請の都度、被控訴人小城町教委は、「区域外就学の協議について」と題する書面を個別に作成して(ただし、同書面には区域外就学を求める個別的、具体的事由は記載されていない。)これを三日月町教委に送付することにより協議し、被控訴人」をそれぞれ加える。

五同三五枚目表六行目末尾の「慣習法」から同裏三行目までを「かかる慣習法が成立する余地のないことは前記第一の三で説示したとおりであるから、右主張は理由がない。」と、同三七枚目表六行目から七行目にかけての「いずこから」を「いずこからか」とそれぞれ改め、同三八枚目裏四行目の「通学距離は」の次に「直線距離で」を加え、同末行の「約一〇〇年」を「長年」と改める。

第三よって、控訴人らの被控訴人小城町に対する訴えはいずれも不適法であってこれを却下すべきであるから、原判決中これと異なる部分を取り消して右各訴えをいずれも却下し、控訴人らの被控訴人小城町教委に対する請求は失当であってこれを棄却すべきであるから、原判決中これと符合する部分は相当であって、右各控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九六条、八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官足立昭二 裁判官有吉一郎 裁判官奥田正昭)

別紙

第一事件控訴人目録

番号

住所

控訴人(保護者)

子供

1

佐賀県小城郡三日月町大字久米一一九五番地

大平 洋子

大平 芙美古

大平 真姫古

第二事件控訴人目録

番号

住所

控訴人(保護者)

子供

21

佐賀県小城郡三日月町大字久米一九九三番地二

右同所

江島 民義

江島 早苗

江島 聖子

43

佐賀県小城郡三日月町大字久米一二〇三番地の一

右同所

大平 竜弘

大平 慶子

大平 剛正

65

佐賀県小城郡三日月町大字久米一七八一番地一

右同所

蒲原  登

蒲原 厚子

蒲原 ひとみ

87

佐賀県小城郡三日月町大字久米一一九三番地

右同所

久米 善秋

久米 昌子

久米 麻友

109

佐賀県小城郡三日月町大字久米一七九〇番地三

右同所

吉村 武寛

吉村 久美子

吉村 美紀

第三事件控訴人目録

番号

住所

控訴人(保護者)

子供

21

佐賀県小城郡三日月町大字久米八八六番地

右同所

大島 慶幸

大島 厚子

大島 まり子

大島 まゆみ

43

佐賀県小城郡三日月町大字久米二一四一番地六

右同所

藤木 義介

藤木 澄代

藤木 香織

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